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東京地方裁判所 平成元年(特わ)1356号 判決

本店所在地

東京都新宿区新宿三丁目二番二号

有限会社三興住宅

(右代表者代表取締役 児玉靜江)

本籍

東京都新宿区西落合三丁目一一九番地

住居

同都杉並区高円寺北四丁目一二番四号

エコーマンション

会社員

児玉方宏

昭和五年三月一五日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社三興住宅を罰金七五〇〇万円に、被告人児玉方宏を懲役二年にそれぞれ処する。

被告人児玉方宏に対し、この裁判の確定した日から四年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人会社は東京都新宿区新宿三丁目二番二号に本店を置き、不動産の売買、管理及び仲介等を目的とする資本金五〇〇万円(昭和六〇年一二月一一日変更登記前の資本金は一五〇万円)の有限会社であり、被告人児玉は被告人会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人児玉は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空手数料あるいは架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五九年一二月一日から同六〇年一一月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億二六四万九八〇九円(別紙1同六〇年一一月期修正損益計算書参照)で、課税土地譲渡利益金額が三億二七五四万九〇〇〇円あったのにかかわらず、同六一年一月三一日、東京都新宿区三栄町一四番地所轄四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三一四万九八〇九円で、課税土地譲渡利益金額が一億一二四七万七〇〇〇円であり、これに対する法人税額が二三一七万二四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成元年押第九七二号の1)を提出し、そのまま法定の納期限の徒過させ、もって不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一億八六七万三六〇〇円と右申告税額との差額八五五〇万一二〇〇円(別紙2昭和六〇年一一月期脱税額計算書参照)を免れ

第二  同六〇年一二月一日から同六一年一一月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が六億四八六二万一〇二三円(別紙3同六一年一一月期修正損益計算書参照)で、課税土地譲渡利益金額が三億七一一四万七〇〇〇円あったのにかかわらず、同六二年一月三一日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億二四八五万五六四三円で、課税土地譲渡利益金額が一億四四八四万五〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一億六七〇一万六一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三億五二四六万七二〇〇円と右申告税額との差額一億八五四五万一一〇〇円(別紙4同六一年一一月期脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  被告人会社代表者及び被告人児玉の当公判廷における各供述

一  被告人児玉の検察官に対する各供述調書

一  富岡臣雄の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の課税土地譲渡利益金調査書

一  収税官吏作成の領置てん末書

一  登記官作成の商業登記簿謄本

判示第一の事実につき

一  秋田鎌博の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の手数料調査書

一  押収してある昭和六〇年一一月期法人税確定申告書一冊(平成元年押第九七二号の1)

判示第二の事実につき

一  野口賢一、橋口房夫の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  売上高調査書

2  商品仕入高調査書

3  売却手数料調査書

4  事業税認定損調査書

一  押収してある昭和六一年一一月期法人税確定申告書一冊(同号の2)

(法令の適用)

被告人児玉の判示各所為は法人税法一五九条一項に各該当するので、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で処断し、また、同被告人の判示各所為は被告人会社の業務に関してなされたものであるから、被告人会社に対しては法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑を科し、その額についてはいずれも情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の右罰金の合算額の範囲内で処断すべきところ、本件は、地価高騰が大きな社会問題となっていた折、いわゆる地上げにより多大な利益を得た被告人会社が、二事業年度にわたり合計二億七〇〇〇万円余りもの巨額な法人税を免れたという事案であり、右脱税のほ脱率も六〇パーセントに近く、その動機も、単に、地価上昇の抑制策である土地重課制度による課税を負担に感じ、これを免れようなどとしたにすぎないもので斟酌すべき点などもとよりなく、その犯行態様たるや、被告人会社との取引とは全く無関係の赤字会社の経営者らにあえて報酬まで支払って手数料等の架空領収書を作成させて架空経費を計上なるなど巧妙、悪質なもので、被告人会社及びその業務を統括していた被告人児玉の刑責は重大であると言わざるを得ないが、他方、被告人会社は修正申告の上、本税の大半(二億円)を納付し、その余の本税の残額、重加算税等についても納付する旨確約していること、被告人児玉にはこれまで競馬法違反による罰金刑以外に前科がなく、現在では本件の非を深く反省していること、その他本件全証拠から推認される被告人らに有利な一切の情状を考慮し、被告人会社を罰金七五〇〇万円に、被告人児玉を懲役二年にそれぞれ処し、同被告人に対しては同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から四年間その刑の執行を猶予することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 反町宏 裁判官 高麗邦彦 裁判官 山田明)

別紙1

昭和60年11月期修正損益計算書

有限会社三興住宅

自 昭和59年12月1日

至 昭和60年11月30日

〈省略〉

別紙2 昭和60年11月期脱税額計算書

有限会社三興住宅

自 昭和59年12月1日

至 昭和60年11月30日

〈省略〉

別紙3

昭和61年11月期修正損益計算書

有限会社三興住宅

自 昭和60年12月1日

至 昭和61年11月30日

〈省略〉

別紙4 昭和61年11月期脱税額計算書

有限会社三興住宅

自 昭和60年12月1日

至 昭和61年11月30日

〈省略〉

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